aki-1

日本に先駆けて6年制薬学教育を実施しているアメリカですが、今の日本の6年制薬学教育のモデルになったともいわれます。

日本がまだ6年制の薬学教育を施行する以前に、アメリカに渡り、6年間、アメリカの大学で学び、薬剤師免許を取得した日本女性Pさんがいます。

彼女のアメリカでの薬学教育体験を通じて、アメリカの薬学教育の実態を紹介します。

まずは、Pさんのプロフィール、アメリカの薬剤師をとりまく環境について……。

Pさんのプロフィール

america-pharma-1

Pさんは両親が薬剤師で、祖父をはじめとする親族にも医師など医療関係者が多いという環境で育ちました。

しかし、日本では、あえて他分野の大学に行きました。卒業後、アメリカに渡り、テレビ局関係の仕事に就きました。

そこで、進路変更し、アメリカの薬学部がある大学に行き、薬剤師免許を取得しました。現在はニューヨークっ州の病院で働いています。

Pさんが薬剤師になろうと思ったのは、環境がそうだったからとは違いました。薬学という学問に興味を持ったからです。薬学を知れば知るほど、飽きるどころか、もっと知りたくなっていきました。Pさんが学んだアメリカの薬学教育の厳しさは、かなりのものでした。

アメリカの薬剤師は職業としてトップクラス

アメリカの薬剤師は日本の薬剤師よりもレベルが高く、信頼されているとよく言われます。

その背景には、アメリカの保健制度が関係しているとはよく言われています。2014年の1月1月からに日本と同じようにアメリカも国民皆保険制度(オバマケア)が始まりましたが、それまでのアメリカの国民は、日本のように平等に医療を受けられるシステムではありませんでした。

アメリカでは、裕福な人は民間の医療保険に加入でき、そうでない人は加入できないために病院に行けば、医療費は全額支払いとなります。

ただ、貧困者や高齢者は、公的医療保険を受けることができるシステムになっています。

 

つまり、病院に行くことを躊躇うのは、皮肉なことに、民間医療保険に加入できない中間層の所得者でした。

そこで、病院に足をなかなか向けられない彼らが頼るのが、薬剤師というわけなのです。

薬剤師から受けるカウンセリングは無料です。彼らの医師は「薬剤師」なのです。

薬剤師の判断で病院に行った方がいいということになれば、彼らはやっと、重い腰を上げるのです。

 

このような背景で患者さんから頼りにされている薬剤師は、常に患者さん以上の専門知識を保ち、知識の更新をし続けていかなければいけないという強迫観念に近い思いを、日本の薬剤師よりも強く持っています。

過去にアメリカの国民が最も信頼できる職業第一位に、薬剤師を何度も指名している理由がここにあります。

6年間の薬学教育で高度な専門知識を学び、国民からの信頼を得つづけなくてはいけないという強迫観念に打ち勝つ術を徹底的に教え込まれるのです。

国民からの信頼を崩したくないために、自然と厳しい教育になっていくのか、厳しい教育が国民から信頼される薬剤師を作り上げたのか、どちらかははっきりしませんが、アメリカの薬剤師の国民評価の高さは、学ぶ者と教育者、両方のコラボレ―ションが昇華された理想の形と言えるかもしれません。

アメリカの薬学教育のカリキュラム

まず、Pre-pharmacyと呼ばれる期間が2年間あります。その次はPharmacy Schoolと呼ばれる期間が4年間あります。

最初の2年間の総合成績が芳しくなければ、次のPharmacy Schoolに進学することはできません。これが薬剤師になるための第一関門になります。

そして、入学当初には、予測も出来ないぐらい厳しく過酷な3年目からの専門課程に入ります。その専門課程では中間試験、期末試験といった日本のような大型試験はありません。

そのかわり、一週間に一回、必ず各学科試験が実施されます。学年ごとに実施される曜日は異なりますが、一科目ずつ試験が3~4回ずつ毎週、実施されることになります。

非常に厳しいのは追試というサポートはなく、一回の失敗で卒業が一年遅れるということもまれではないということです。

1~6年次までバイトする暇など全くないぐらいの過密スケジュールをこなしていかなくてはいけません。

各学期終了時点で、一科目でも合格点に達していなければ、次の学期で学ぶ予定の科目の履修は認められません。

つまり、今学期、クリアできなかった科目は、次学期で再履修するということになります。これが、一科目でもクリアできなかったら、卒業も遅れるという理由なのです。

講義を録音するアメリカの薬学生

薬学生のほとんどが、各自、録音機持参で、講義を受けます。一応、大学の薬理学や治療学の指定教科書はあります。

しかし、各学科の教授、講義を受け持つ臨床薬剤師たちは、自分で作成したプリントなどを使って講義を行います。

教科書はあくまでもサポート役でしかなく、便りになるのは、プリントと教授たちが喋った講義内容を書いたノートが全てです。

その日の講義が終了したら、プリントと講義内容が録音されたテープを抱えて、図書館に行き、テープ起こしをして復習します。

Pさんも録音機持参で勉強

勿論、Pさんも同様です。教授の言葉を全て、逃がさずにノートに書きとります。同時に録音機も回っています。

一日、5時間の講義があれば、テープ起こしに10時間は費やしています。Pさんは、薬学生になる前にアメリカのテレビ局に勤務していたため、英語は不自由なく読み書きができます。

しかし、薬学、医学の英語の専門用語に加え、試験となれば、何となく理解しただけでは、確実に不合格です。それでなくても、教授たちのほとんどが、早口。

もしかすると、教授に限らず、アメリカの臨床薬剤師もそうなのかも?

たくさんの情報があり過ぎて、色んなことを敏速に伝えていかなければいけないから……。

臨床を最重視した薬学教育

アメリカの各大学ではそれぞれ独自のカリキュラムを持っていますが、どこの大学も疾患ごとに分別された薬物治療学中心に学びます。

日本の薬学教育が6年制になるまでは、臨床とはかけ離れた化学系の実験が多く、研究者育成志向のカリキュラムでした。

アメリカは、日本とは逆で化学系のカリキュラムは少なく、臨床学に重きを置いたカリキュラムになっています。

日本の薬学教育も6年制になってからは、臨床方面に力を入れた内容になっています。

インターンシップの内容

アメリカの薬学恐育では、専門課程の2年目からインターン制度が組み込まれています。

最終学年で行われる1年間のインターンシップは薬剤師免許獲得に不可欠で、そのカリキュラムは教育委員会で定められています。

薬学生達は、専門病院、総合病院、ホスピス・緩和ケア施設、診療所、調剤薬局などを巡回していきます。

行った先々で、臨床検査データの理解、読み方、カルテの内容の理解、参考文献の選択方法、など決められたカリキュムを消化していく一方で、薬物の副作用、相互作用をチェック、」医師への薬物情報提供方法などが確実に迅速にできるよう、指導を受けます。

大学では、毎週の各試験に合格できるよう講義中心に勉強していきますが、これらの勉強が確実に活きて学ぶことができるのはこのインターンの期間です。

このインターンの期間、病院に配属された薬学生は教授、医師、薬剤師、医学生たちの約10人程度の治療チームのスタッフの一員として早朝の病室回診に始まって、治療決定会議等にも参加するようになっています。

当然、そのチームの中で薬物治療方法などの意見を求められることもあれば、薬物に関してのプレゼンテーションを任されることもあります。プレゼンテーションは、医師、薬剤師

看護師、患者さんなど、色んな立場の相手を対象に行われ、1年のインターン期間で一番、重要なプログラムとなります。このプログラムの目的は、同じ疾患や薬物のことを説明する場合、説明する相手によって説明内容、または話す言葉を適切に変えて行うという、コミュニケーションスキルを身に着けるためのものです。

具体的には、週に一回、指導臨床薬剤師の面前で担当患者のプレゼンテーションをします。

過去、現在、未来を通しての薬物治療計画を立て、その計画を理論的に説明しなくてはいけません。

もう一つ大事なカリキュラム;ジャーナル・クラブ

このカリキュラムが課せられる目的は、医師に限らず、薬剤師も次々と発表される医学薬学の研究情報を最初の第一情報である学術文献から調べていくテクニックを習得するということです。なぜなら、有名な学術雑誌に論文が掲載されているからといって、その結果が全て正しいと鵜呑みするわけにはいかないからです。

そのため、自分の目に留まった学術論文が信用できるものか、できないものかを見極めて、それが治療に役立つものかをどうかを判断する能力をつける必要があります。

大学で習得するDI(Drug Information)は、学術文献の探し方や読み方を学びます。それに対してジャーナル・クラブというのは、DIの応用編といった感じです。

このカリキュラムのメリットは、自分の研究している、又は探索していることが薬学という範囲を飛び出して、他の分野にまで幅を広げることができるということです。

このことは、薬学を綜合医療として発展させることに役立つと言えます。ただ、インターン期間というのは非常に多忙で、それらを深く追及する時間を与えられていません。

とはいえ、薬剤師になったからといって勉強は終わりではありません。ジャーナル・クラブは薬剤師になってからさらに重要になっていくもので、勉強する機会は十分あるといえます。

アメリカ人の指導臨床薬剤師に日本人学生は?

薬学生は指導臨床薬剤師からのあらゆる角度の執拗な質問に辟易しながら、答えていくわけですが、アメリカ人は主張すること、議論することを好みます。

議論が白熱すればするほど、喜々とし、さらに攻めてきます。そのため、議論をふっかけられた相手もただ、黙っていることを好まず、意見、反論してくることを要求してきます。

自分の意見や反論を淀みなく、相手に伝えることを苦手とする日本人学生には勉強のハードなスケジュールと同じぐらい、いやそれ以上に辛いトレーニングかもしれません。

学生インターンでも給料は支払われます

Pharmacy Schoolになると、その大学が所属する州の薬剤師協会からインターン許可書が発行されます。

ほとんどの薬学生が許可書を利用して病院や調剤薬局で働きながら、薬剤師としての疑似体験をします。このようなインターンは、大学で決められたカリキュラム以外ということで、給与も支払われるようです。スーパーバイザーの監視下ではあっても、薬剤師と同様の仕事をする(薬事法が同様の仕事をすることを認可)ということに対しての報酬でもあります。

そして、病院では月に一度程度、生涯教育の参加、医師たちのプレゼンテーションにも参加できるようにと、薬学生に対して門を広げてくれているようなのですが、現実的には大学の講義に追われ、そんな時間の余裕はないといった学生たちがほとんどです。

アメリカにはテクニシャンという調剤補助の人がいます

Pさんもこのような大変な過酷なカリキュラムを終え,薬剤師免許を取得してニューヨークの病院で働いています。

アメリカでは日本と違い、薬剤師の補助をしてくれるテクニシャンという職業があります。

テクニシャンは、薬剤師協議会が決めた試験を受けて認定される職業です。ただ、認定書が必要かどうかは、州によって異なってきます。薬事法では、薬剤師一人に対してテクニシャン二人までつけることが認められています。

アメリカの調剤薬局では、テクニシャンが錠剤を出し、会計も行います。また、病院でのテクニシャンは、点滴の準備から調剤業務まで任されています。最終チェックは、薬剤師が行います。

テクニシャンの存在で薬剤師本来の仕事ができます

薬剤師はテクニシャンの存在のおかげで、薬剤師は薬剤師ならではの仕事に集中できます。

処方箋の発行、変更、医師への疑義照会などを綿密に行えるので、調剤ミスなどを事前に防ぐことができるのです。

日本はまだ、このテクニシャン制度がはっきりとできていないので、薬剤師は調剤業務にばかりに忙殺されてしまいます。

日本にも遅ればせながら、この制度がお目見えするのも近いのではと予測しますが……・。

言わば、アメリカのインターン生の位置づけは、薬剤師とテクニシャンの間になります。両方のスキルを学ぶということになります。

従って、インターン生は調剤を学び、処方箋の誤った処方の発見、変更、改正、

医師や看護師との連携など、学生とはいえ業務の範囲は広大です。