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オリンピックをはじめとする種々の競技大会に出場する選手たちは、自分の体の状態だけでなく、口にする薬物やサプリメントなどに注意を払っていかなくてはいけません。

それは、あまりにも禁止物質が多いからです。

うっかり、口にしてドーピング検査にひっかかれば、即刻、出場停止、または、競技成績の取り消しになります。

これでは、今までの積み重ねてきた練習が、何の意味も持たなくなります。

しかし、この厳しさは、選手の体を守り、真の優勝者を決定するのに必要不可欠なことです。

そこで、今回はスポーツファーマシストという専門家の立場から見て、何故、選手達が服用を禁止されているのか、代表的な薬物を用いてその理由を探ってみたいと思います。

β―ブロッカ―

薬理作用

β₁とβ₂受容体の両方をブロックする「非選択的β―ブロッカー」と、β₁受容体のみ、ブロックする「β₁-ブロッカー」があります。

β₁受容体をブロックすると、心拍数、心拍出量が低下します。

また、房質伝道が抑えられることで、血圧を下げ、不整脈が起きないよう、また心臓を保護するなどの作用が見られます。

禁止物質となる理由

かなりの緊張が強いられる競技の時は、心臓の拍動も強く、交感神経が優位になります。

B-ブロッカーはこのような作用を抑えることができます。

心臓の拍動を抑え、心臓をおちつかせることで、精神的にもパフォーマンスに良い状態に働きかけるので、特定の競技(スキージャンプなど、競技の時に限って、禁止されています。

興奮によるドキドキ感が邪魔になるアーチェリーなどは、β―ブロッカーが有利に働いてしまいます。アーチェリーや射撃は、競技会以外でも禁止されています。

アルコールも特定競技に限って禁止

アルコール飲むと(飲酒)、脳の中枢神経系に作用して、不安感が消え、多幸感が出てきます。

アルコールの量を調節して、この作用を上手くコントロールできれば、競技能力をいい状態で出させることができると指摘されています。

アルコールが禁止されている競技は、アーチェリーやモーターサイクル(バイク)などです。

ドーピング検査は尿検査が基本ですが、アルコールの場合は、呼気検査か血液検査があります。

その訳は、エタノール(アルコールの成分)の尿中濃度と血中濃度が比例しないからです。その一方で、呼気のエタノール量と血中のエタノール量は相関します。

余談ですが、酔っ払い運転に呼気検査が選択されるのは、このためです。

ステロイド

ステロイドとは、ステロイド骨格を持つ化合物の総称です。医療機関でよく言われるステロイドとは、副腎皮質ホルモンの糖質コルチコイドのことです。アトピー性皮膚炎などによく出されます。

一方、スポーツ関係者がよく口にするのは、蛋白同化ホルモンである男性ホルモンのことです。

糖質コルチコイドは禁止物質ではありますが、男性ホルモンよりは規制が緩くしてあります。

経口投与、静脈、菌幾注射や経直腸等による使用は禁止されていますが、耳、目、皮膚、歯肉に対しては、使用できます。

体内に元々ある男性ホルモンとの区別はできる?

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ドーピング検査においては、内因性と外因性の蛋白同化男性ホルモンの区別をつけるための検査方法がきちんと定められています。

蛋白同化薬(男性ホルモンなど)を服用すると、尿中に出てくるステロイドやステロイド代謝物を変化させることがわかっており、この作用を上手く利用して区別をします。

薬局で買える男性ホルモンが入った塗り薬

発毛剤のミクロゲンパスタです。メチルテストステロンが主な成分です。勿論、ドーピングの禁止物質となっています。

同じ発毛剤でもリアップやプロペシアは成分が男性ホルモンではないので使用可となっています。

蛋白同化薬

薬理作用

蛋白同化薬の男性ホルモンであるテストステロンは精巣で作られます。

そして、5α―還元酵素により、大部分がジヒドロテストステロン(DHT)に代謝されます。

どちらも、アンドロゲン受容体に作用して、生殖器官の発達などの男性化、筋肉の発達などの蛋白同化作用があります。

男性化作用を緩め、蛋白同化作用を強くしたものが蛋白同化ステロイドなのです。

禁止物質となる理由

筋肉量が増え、筋力が強くなることで運動能力の向上だけでなく、攻撃性が表面に出易くなることを考えて禁止されています。

糖質コルチコイド

薬理作用

糖質コルチコイドは、副腎皮質で作られるステロイドホルモンです。

主要な薬理作用は、抗炎症作用、肝臓での糖新生促進、免役の抑制等があります。体の中の組織にある細胞質の糖質コルチコイド受容体にくっつき、蛋白合成を経ながら、作用を発現します。

そのため、効果が出てくるまで時間がかかると言われています。

また、作用機序はまだ不明ですが、中枢への作用もあることがわかっています。

禁止物質となる理由

中枢神経に作用することで、多幸感、昂揚感を齎すために禁止です。また、糖質、脂質、蛋白質のエネルギー代謝に影響してくるからです。

強力に炎症を抑えてしまう力があるため、怪我をしていても、競技を続けることが可能な場合があります。そのため、怪我をより増悪させる可能性があるために禁止です。

ドーピング禁止表に記載されていない物質等

禁止表に記載されている蛋白同化薬はあくまでも一例です。

それに「類似した化学構造、生物学的作用を有する他の物質」も禁止されることになります。

シドニーオリンピックの金メダリスト;マリオンジョーンズ選手や、大リーグサンフランシスコ・ジャイアンツ;バリー・ボンズ選手が使ったとされるテトラヒドロゲストリノンという物質があります。

この物質は、蛋白同化ステロイド薬の化学構造を少し変換させて、検査で検知されにくくしたものです。

このような物質をデザイナー薬物と呼ばれています。このように禁止表には記載されていなくても、記載された物質と類似しているところから、禁止物質となります。

現在は、このテトラヒドロゲストリノンは禁止物質に指定されています。

今回、紹介した物質はほんの一部です、他にも、利尿剤、ペプチドホルモンなどなど・・・・・。

ドラッグストアや薬局にある市販品にも禁止物質はあります。

スポーツファーマシストでなくても、薬の専門家として最低限のドーピング禁止物質を知っておくべきでしょう。