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ある診療所が門前薬局のトラブルをきっかけに院外処方箋を院内処方箋に切り替えました。

これを門前薬局が契約違反としてその開業医を相手取り、損害賠償を求めていました結果は門前薬局の勝訴で、裁判所は開業医に550万円の支払いを命じました。

この興味深い事例を紹介します。

出始めは意気投合

仲介者を通して薬局経営者A氏と診療所G医師は、医薬分業による経営を行うことを合意しました。

数か月後、A氏はG診療所の全ての採用品目を医薬品卸に発注したり、診療所と薬局のスタッフの接遇研修を合同でしたりと、共に開業準備をしていた頃、G医師の妻からA氏にリベートを要求するかのような発言がありました(G医師は否定)。

その後、同時開業となりました。診療所のほとんどの処方箋はA氏の薬局が受け付けるという典型的なマンツーマン分業が開始されました。

当初は順調にA氏の薬局に処方箋が流れていました。

診療所が薬局の経営に口出しを

開業して一カ月後、診療所から薬局が入院(6床)患者さんの治療用に貸していた医薬品を無償で提供してほしいという話がありました。

話し合った結果、薬局の仕入れ値で生産することになりました。このことをG医師は否定しましたが。

このような経緯に前後して、薬局に対して患者負担金の徴収方法に口出しがあったようです。

突然、院外処方箋の発行を中止。院内処方箋へ

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このようなやりとりがあった後、薬局への説明は全くなく、診療所は突然、院外処方箋の発行を中止し、院内処方箋に切り替えてしまいました。

A氏はその理由を知るため、診療所に問い合わせをしました。G医師は、明日から院外処方箋の再開をすると言ってきました。

ところが、その日の院外処方箋は不正な処方箋(入院患者の治療のため、患者の妻名義で発行した処方箋)経った一枚だけでした。

その後は一枚も診療所の処方箋が薬局に持ち込まれることはありませんでした。

そこでA氏は不正な処方箋で使用した薬剤を回収するため、翌日、診療所に行き、G医師に面会しましたが、話しはつきませんでした。

仲介者を間に入れ、話し合いをするが……

G医師はA氏に謝罪し、これまでのことは水に流し、以前のようにやり直しを求めてきました。

しかし、A氏は「リベート要求や薬局経営の介入の問題が起きないよう具体的な取り決めが必須」と、同意しませんでした。

それからもA氏は薬局を続けましたが、診療所からは院外処方箋が発行されませんでした。薬局は診療所の門前薬局という立地からして、他の医療機関からの院外処方箋を受け入れることが困難な状態でした。

薬局はこのため、開業し続けることが困難になっていき、開局して僅か3か月で閉鎖となりました。

A氏、G医師を訴える

「マンツーマン分業契約」「院外処方箋契約」をしていたにも拘わらず、G医師がこれに違反して院外処方箋を発行しなかったため、薬局の閉鎖に追い込まれて損害を被ったと、1650万円の損害賠償を求める訴えをおこしました。

G医師のほうは「薬局の開業を依頼したり、その経営の安定を保障したことも無い、共同協力して経営を行う約束もしたことはない」と、契約そのものを否定し、処方箋発行の義務も無かった」と反論しました.

判決は契約の存在を認める

この裁判は3年間にわたりました。○○地裁はA氏の主張をほぼ認め、G医師に対して550万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

互に契約書こそ取り交わしていませんでしたが、医薬分業を前提に両者が共同で開業準備をおこなっていたという事実を踏まえ、同地裁は「被告が院外処方箋を原告の薬局に回し、これを原告が調剤するという合意が成立していた」と判断しました。

「一度は原点に返って、再度、院外処方箋を発行すると申し出たものの、原告から拒否された」というG医師の見解も「原告がすぐに」これに応じなかった理由は、被告から発行される処方箋の調剤そのものを拒否するというのではなく、そこにくるまでの紛争の具体的解決の取り決めがなされることを前提としていたから」であるとし、原告の主張を退けました。

一方、この判決に対して、G医師は「事実無根」で判決そのものを不当とし、A氏は認められた賠償金額が不当とし、それぞれ○○地裁に控訴しています。

この判決の問題点

今回の判決は薬局にとって良い結果であったにも拘わらず、この判決を歓迎する声があまり聞こえてこないのは何故でしょうか?

それは損害賠償の源となった「院外処方箋発行契約」が、本来のかかりつけ薬局を患者が自由に選ぶという医薬分業の主旨とは異なってくるからです。

この判決に出てくる「院外処方箋発行契約」においては、患者を特定の薬局に誘導することを禁止した「保険医療機関及び保健医療養担当規制」に触れてしまうのではないかという思いが、この判決に複雑な思いを寄せる理由です。

○○地裁もこの点については言及しています。医療機関が特定の薬局を誘導しないように

行政が指導をしていることを踏まえながらも、「院外処方箋発行契約の締結を禁じた法規は存在しない」と述べています。つまり、療養担当規制が禁じているリベート提供がなければ、「院外処方箋発行契約」を結ぶこと自体には違法性はないと言い切っているのです。

だからといって、マンツーマン分業を行っている医療機関と薬局の間で、すべて契約の成立が認められているわけではありません。

A氏とG医師の場合は、同時開業に向けて協力的に準備作業を進めていったという事実がありました。

処方箋発行中止例は珍しくない

トラブルの原因は、医師の指示通りに調剤しないという薬剤師側に問題がある場合もありますが、薬局にリベートを要求し、断られた医師がその腹いせに処方箋発行を中止してしまうケースもよくあります。

いずれにしても苦境に立たされるのは薬局側です。

医療機関側の一方的な事情で処方箋発行中止となった場合、最後の切札として損害賠償という方法があるということを知っておいても損はないと言えます。

 

 

その後の展開:一審判決取り消し! 薬局の逆転敗訴】

その後、G医師は判決が妥当でない、A氏は「550万円」が不服として控訴しました。

結論から言いますと、控訴審判決において高裁は「A氏の門前薬局の損害御賠償請求を棄却するという逆転判決を言い渡しました。

なぜ薬局側が敗訴したのでしょうか?

A氏が主張した「院外処方箋発行契約は成立していた」かどうかが、高裁でも重要な点でした。

A氏は一審の時と同じように、「院外処方箋発行契約の成立を主張しました。この契約や「マンツーマン分業契約」は薬局業務運営ガイドライン(93年厚生省通知)が禁止している「処方箋の斡旋」には属さないとも。

また、処方箋発行に関する契約が行政法規に違反すとなっても、人間としての契約である「マンツーマン分業契約」「院外処方箋発行契約」が無効になることはないと主張しました。

この主張は法律に詳しくない人には難解な部分ですが、法の世界では通常の考え方の1つで、最高裁の判例において食品衛生法に違反する精肉の売買契約を有効と判定した事例があります。

G医師のほうは、経営上の協力を約束したことはないと、契約は成立しないと主張。処方箋発行で医療機関と薬局が契約を結ぶこと自体が法律に違反することを考えると、 A氏の薬局だけが利益を得るような契約をG診療所が締結するわけがないと主張しました。

高裁の判決内容

一審と同様に互いの間に処方箋発行について合意があったと認めました。また、A氏が主張した内容についても「相当の根拠がある」と認めました。

しかし、一審と違うところは、医師、薬剤師法、厚生労働省関係の法律、通知、療養担当規則等、または医療関係の専門家の意見等を収集して、緻密に検討したようです。

そして、「法が目指す医薬分業は面分業である。特定の医療機関と特定の薬局が締結することは、法による医薬分業において、できるだけこれを避けるべきであり、行政もそれを基本として医薬業界の指導に励んできた」という見解を述べました。

そして、「両者の合意は単純に事実上の約束、協力関係の確認以外何もなく、マンツーマン分業契約、院外処方箋の発行契約の成立は認められない」と結論を出しました。

判決直後、A氏は上訴する意向を示していたようですが、本人の事情から断念しました。

これで判決は確定となりました。

今回の高裁判決は常識的

日本薬剤師会は今回の判決について「経済的に医療機関と薬局を結び付ける契約は健康保険の中では許可されていないので、今回の判決は予想通り」と受け止めています。

「あくまでも患者が主人公。患者本位の医療を実現していかなくてはいけない現代の流れを加味した判決であった。そのことが医療人として納得できる」とは薬剤師でもある弁護士の話です。

しかし、一方で前出の弁護士が所属する薬事法学研究会で意見を求めたところ、一審判決を支持した者が多かったと言います。

その理由は、行政指導にまで踏み込み、『法の精神』にまで話をつなげた高裁の判決よりも、『行政法規に違反する契約でもただちに無効となるわけではない』とする一審判決のほうが筋が通っているという弁護士のほうが多かったようです。

ある大学法学部教授の言葉があります。

「一審判決が経済的、社会的に弱者である薬局を重要視しているのに対し、高裁判決は医薬分業の定義に重点を置いた裁判と言える。結果的にはどちらも成立する」

処方箋の発行において医療機関と薬局の合意が「契約」として成立するのかどうか、今回の判決だけでは言いきれないようです。