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薬剤師が患者の了解を得てから、トレースレポート(服薬情報提供書)を作成しました。

その後、この書類を主治医の診療所にファックスしたのですが、ファックス番号を間違えてしまい、主治医ではない第三者のファックスに送信してしまいました。

事例

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患者さんが抗うつ剤による副作用が出たのではないかと、薬剤師による服薬指導の時に言いました。

「そうなんですか。それは辛かったですね。今、△△さんが言われた症状を主治医の先生にお話ししてもよろしいですか?」

「はい、お願いします。私からは先生になかなか言い出せなくて……」

「わかりました。私のほうから先生に連絡しておきましょう」

薬剤師はトレースレポートを書き、主治医の診療所にファックスしました。

 

薬剤師が書いたトレースレポート

今日、△△美代子様(昭和42年2月18日生)は、抗うつ剤を飲み始めてから、尿漏れがあると訴えられました、

先生には恥かしくて話せなかったとのことです。ご対応のほど、よろしくお願いします。

なお、処方されている抗うつ剤には尿失禁という副作用は報告されていないことは、患者様には説明してあります。

 

薬剤師は、ファックスを主治医の診療所に送信したつもりでいました。

それが実は、薬剤師はファックス番号を間違えてしまいました偶然にも△△さんの自宅の近所のファックスに送信していました。

 

運悪く、その近所の奥さんは「情報局」とあだ名がつくほどのお喋りさん。トレースレポートの内容を周りの人に話してしまいました。

△△さんは自分のことが近所で噂になっていることを知りました。もう恥ずかしくて恥かしくて……。

△△さんは薬局に行き、薬剤師に言いました。

「ファックスが間違って、私の近所の家に届いたんですけど。もう恥ずかしくて。抗うつ剤とか尿漏れとか書いてあるし。私の名前とか病気とかは個人情報になりますよね。

個人情報を漏らすなんてことは法律違反ではないのですか?

この薬剤師は、患者さんに精神的苦痛を与えてしまいました。このような場合、薬局や薬剤師、そして△△さんの情報を近隣にもらした間違いファックス受信者は、どのような法的責任が生じるのでしょうか?

患者情報の漏洩について

今回の事例で漏れてしまった情報は、明らかに患者さんの個人情報です。

 

個人情報

生存する個人の情報、当該情報に含まれる氏名や生年月日などにより、特定の個人を識別できるものを指します。

 

トレースレポートには患者さんの氏名、生年月日、処方薬、症状などが書かれています。そのため、個人情報に相当することは明らかです。

但し、薬剤師は故意に漏らしたわけではないので、刑法第134条1項で定める秘密漏示罪を問うことはできません。

その一方でファックス番号を間違えてしまった薬剤師の勤務する薬局が、個人情報取扱事業者であるならば、個人情報の保護に関係する法律の個人情報保護法が適用されます。

この法律は、個人情報のデータベースなどを事業に用いている事業者のうち、個人情報により識別される個人の数が5000を超える事業者を個人情報取扱事業者と言います。

薬歴簿などデータベース形式で管理されている個人情報の漏洩を防ぐために、安全管理据置や従業者の監督を義務付けています。

今回の事例ではデータベース形式で管理されていない

今回の第三者に誤って送信されてしまったトレースレポートは確かに個人情報ではありますが、薬歴簿の様にデータベース形式での管理はされていないので、同法で定める個人データには該当しません。

そのため、トレースレポートの漏洩は、個人情報保護法を違反したことにはなりません。

しかし、厚生労働省は……

2004年12月に定めた「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」の中で、個人データに該当しない個人情報にも、適切な安全管理据置を講じるよう規定しました。

從って、個人情報の漏洩があった場合、

 

①個人情報の保護に配慮しつつ、可能な限り事実関係を公表

②漏洩の事実を都道府県の薬務課に速やかに報告

 

二次被害防止、類似事案の発生回避のため、上記の2点の実施が求められます。

たとえ、個人情報取扱事業者に当てはまらない薬局であっても、漏洩した情報が個人データであろうとなかろうと、これらの事後処理を直ちに行う必要があります。

患者さんが受けた被害の法的責任について

個人情報には、患者さんの秘密の情報も含まれています。

そのため個人情報が漏洩したことで第三者に自分の秘密を知られてしまった患者さんは、当然、精神的な苦痛が生じてきます。

薬剤師は過失により、主治医以外の他人に患者さんの個人情報を漏らしてしまったので、患者さんに対して不法行為を行ったことになります。

そのため、慰謝料など損害賠償責任(民法第709条、第710条)を負わなければいけない可能性が出てきます。薬剤師を雇っている薬局も同様です。

患者さんの個人情報を外部に広めた者は?

個人情報を間違って入ってきたファックス内容を近隣に広め、患者さんに精神的苦痛を与えた人間にも不法行為の責任を取らなくてはいけません。

間違って受け取ったファックスとはいえ、その内容を他人に漏らせば、患者さんに精神的苦痛を与えてしまうことは予測できます。

このファックス誤信による個人情報の二次漏洩は予見できたとして、薬局や薬剤師が過失を問われることもあります。

間違えてファックスを第三者に送信してしまったことが分かった時点で、急いでファックス用紙を回収し、その内容は絶対に他に漏らさないようお願いすることは可能です。