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薬剤師の業務は常に「法」がついて回ります。

薬局内で色んなトラブルに遭遇した時、法律はどのようなケリをつけるのでしょうか?例を挙げてみましょう。

エスカレートするクレーム

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処方された薬ではない薬を薬剤師は、患者さんに渡してしまいました。

患者さんは薬局に対して必要以上のクレームをつけてきました。たしかに「非」は薬局側にあります。

しかしながら、健康被害も出ず、薬局も相応の処置をとり、通常ならこれで解決というぐらいの軽いミスでした。

にも拘らず、毎日のように薬局に来ては、店の真ん前に車を横付けにします。店内に入って、患者さんがいる前で大声を出し、薬剤師、事務員を脅すという悪質なクレームをつけていました。

暗にお金の要求も迫っています。毎日のことだから、営業妨害にもなっていました。このまま放っておくと、クレームはどんどん、エスカレートしていくばかりです。

調剤過誤で健康被害が起きているのであれば…

当然、薬局側に賠償責任が生じてきます。そして、その責任の大きさは過失ではなく、損害の大きさに比例します。

どういうことかと言いますと、患者さん側が請求できるのは、通常の場合、患者さん自身が受けた損失に見合う金額です。

それ以上の金額を請求することはできません。

今回のケースは健康被害が出ていない

にも拘らず、執拗な悪質のクレームがいつまでも続くようであれば、早めに弁護士に相談し、」法的な対応をとるのが一番の方法と考えます。

 

A氏のクレームのつけ方は悪質で犯罪行為に相当する可能性が出てきます。他人に害を与えそうな言動は刑法第222条の脅迫罪に当てはまります。

また、脅迫に基づく金品の要求は同249条に。さらに、薬局内でわめき散らし、薬局の前に車を横付けなどをする行為は明らかに営業妨害です。

これは同233条、234条の「業務妨害罪」や「業務威力妨害罪」に該当する可能性が髙くなります。

刑法に当たる犯罪においては当然、警察を呼ぶことも可能で、被害を受ければ、相手を刑事告訴すればいいのです。

 

民事では…

こういう違法なやり方での損害請求は、民法第1条2項で、認められていません。

薬局側がやれる方法としては、「債務不存在認訴訟」というものをおこすことで、相手に対して損害額が全くない、あるいは一定額以上存在しないと、申し立てを行うことができます。

また、患者さん側から違法な請求方法で被害を被ったのであれば、その患者さんに対して、違法行為のさし止めや損害賠償請求を行く事ができます。

訴訟は時間がかかる

そこで仮処分命令を発令すればいいのです。これについては、民事保全法第23条に規定されています。

訴訟で判決が確定するのを待っていると、状況が変わり、著しく損害が生じる可能性があれば、裁判所によって仮処命令が発令されます。

仮処分が決定すれば、不服申し立ては可能になりますが、その処分は従わなければいけません。

例えば、患者さんが毎日、薬局に来て大声を出すというようであれば、「患者さんが薬局に近づくことを禁止する」という仮処分や「薬剤師に対して暴力の使用を禁止する」という仮処分の申し立てを行い、その決定を確実なものにしてから裁判で解決、あるいは患者さん側と交渉を行うというやり方が妥当かと思われます。

適切な法律手段で冷静に対応

確かに調剤過誤をおこしました。だからといって、悪質なクレームに振り回される必要はありません。適切法的手段で冷静に対応したいものです。

クレーマーとのやりとりは必ず複数で行いましょう。

交渉経過の詳細をきちんと記録しておくことも忘れずに。記録は民事、や刑事事件の貴重な資料、証拠となります。

とにかく、悪質なクレーマーには薬局のほうから訴訟をしたり、刑事告訴も可能ということを念頭に入れておきましょう。

文中の法律の詳細

刑法第222条一項「抜粋) 脅迫

生命身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処する。

刑法第249条第一項(抜粋) 恐喝

人を恐喝して財物を交付させた者は10年以下の懲役に処する。

刑法第233条第一項(抜粋) 業務妨害

虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。

刑法第234条(抜粋) 業務威力妨害

威力を用いて人の業務を妨害した者も前条の例による

経緯はどうであれ、患者さんは入院を要する健康被害に見舞われる

処方箋を受け付けた患者さんから血圧降下剤の錠数が不足しているとクレームの電話。薬剤師は在庫などを調査したものの、在庫の数は合っているし、他に不適切だった箇所も見当たらないので、患者さんの勘違いだと考えていました。

しかし、患者さんは絶対に数が不足していると言い張られます。

薬剤師は薬局長に相談しました。

「そういう患者さんはよくいる。こっちのミスだと決めつけるんだよ。もう、面倒だから、とりにきたら、不足の数を聞いて、その通りに渡して。それ、薬価はそんなに高くないものだろ?」

「……はい」

 

3日後

患者さんの夫が薬局にきました、夫の話では、患者さんは薬袋には一回一錠と書いてあったのに、間違えて2錠飲んでしまったと。そのため、数日後、倒れ、救急車で運ばれて、」入と言うことになってしまったようです。

夫の言い分は、間違えて倍飲んでしまった妻にも責任があるけれど、電話して、薬の数が足らないと話した時、薬の専門家の薬剤師さんならおかしいと思わなかったのかと。

そして、この責任を取ってもらいたい、入院費用、治療代も薬局側が払うべきだと主張しています。

さあ、このようなケースはどのように対処すればいいのでしょうか?

この場合、薬剤師としてどんな法的責任が?

まず、薬剤師は処方箋通りの調剤することが義務付けられています(薬剤師法第23条第一項)。

この法律から言えることは、例えば、錠数の不足の原因が処方せんに記載されているよりも少なく薬剤師が調剤をしたのであれば、患者さんが言われる通りに不足分を患者さんに)渡さなくてはいけません。

また、薬剤師は処方箋通りに調剤したけれど、患者さんが紛失、過剰に服用したために錠数が不足したんのであれば当然、本来ならば、不足分の錠数ほど薬を渡す必要はありません。

この事例もこれに相当します。

とはいっても、患者さんから強く求められると、向精神薬や睡眠薬のような乱用、転売の危険性がある薬剤でなければ、不足分を渡して、落ち着こうとする薬局も少なくありません。

本来、不足分を渡すことは法に違反している

薬剤師は患者さんの執拗な要求に負けて、薬を二度も渡しています。

しかし、薬剤師は処方箋通りに、調剤を行わなければいけない義務があることを考えると、紛失したとはいえ、結果的には処方箋通りでない調剤をしたことになります。

要するに、薬剤師法第23条第一項に違反したということになります。

処方箋通りの調剤を行ったということをまずは言うべき

在庫の数以外、もっと調べなければいけないことがあるのに、面倒なことを避けたいため、また早く解決したいという考えから、性急に不足分を患者さんに渡してしまったのは間違いでした。

調剤は処方箋通りに行われていて、不足はしていなかったことを面倒臭がらずにきちんと」(患者さんに説明すべきでした。

何故、不足ということになったのか、もっと慎重に考えるべき

患者さんが錠数の不足を訴えてきた時、薬剤師は自分の調剤ミスを考えると同時に、薬の取り扱い方法や、服用方法を尋ね、錠剤不足の原因を深く追求すべきだったのです。

【B】例でいえば、患者さんの薬の取扱い方法や服用方法をきちんと質問をしていれば、患者さんが飲み間違えて、1錠を2錠飲んでいたことも必ず気付いたはずです。

要するに、在庫確認までは行っていたけれど、それ以上の追及した調査を怠たり、原因究明をせずに二回に渡って薬を渡してしまいました。

そのため、患者さんを過剰服用によって、入院しなければいけないほどの強い副作用の症状が出てしまったことに対しての法的責任は、免れることはできません。

B例の場合は、患者さんに非?それとも薬剤師に非?

患者さんが入院した原因が、患者さんの勘違いによって二倍量を服用したためか、薬剤師が二重に薬を渡したためなのかは不明なままです。

もし、患者さんが二倍量飲んだために入院したのであれば、主に患者さんが責任を負わなければいけません。

ま た、薬剤師が二重に薬を出したためと、患者さんが二倍量を飲んだためと、両方が原因として考えられるのであれば、両方が責任を負います。この場合、薬剤師 や薬局長には患者さんが受けた損害の賠償責任が生じてしまいます。しかし、患者さん側のほうも二倍量誤って飲んでしまったという過失があります。結果、 其々の過失割合によって賠償額は、相殺されることになります。

薬剤師が問われる責任はある?

薬剤師は、調剤した処方薬の適正なる使用するための必要な情報を患者さんに提供しなければいけない義務があります。

B例が調剤終了後、患者さんに薬を渡す際の服薬指導で、服用方法等のきちんとした説明がされていないということになれば、説明義務違反を問われる可能性が大になります。

このようにならないようにするために、患者さんが錠数の不足を指摘してきた時、安易に不足分を渡さずに、そうなった原因を緻密に調べるべきだったのです。

そのことが、これから、調剤ミスを未然に防ごうとする毅然とした心を持つことができるようになります。

袋の中の薬は患者さんと一緒に確認し合う

薬袋の中の薬を説明する時に、患者さんにも薬の種類、数を確認してもらうようにしましょう。

副作用の強い薬や向精神薬については、患者さんが薬の種類と数を確認したという署名を求め、証拠書類としてストックしておくなど、万が一のため、色々考えておくと良いと思います。

【C例】

薬剤師が調剤ミスにより、患者さんは体調を崩し、2週間入院

薬剤師が処方箋を読み間違えて、約10倍量の薬を出してしまいました。患者さんは薬の副作用が出てしまい、入院。食道を経営していましたが、2週間、休業せざるを得なくなりました。

薬局長と薬剤師は、お詫びのために患者さんの入院先に病院を尋ねました。そこで、患者さんは入院費用だけでなく、店を閉めている間の売り上げや、生鮮食品の損害、」自分達の生活費などを含め、300万円要求してきました。

今回の問題は休業する破目になった損害、賠償額をどのように算定するかということです。

薬剤師が調剤ミスをしたならば、薬局も連携して賠償しなければいけない

薬局には調剤契約の履行義務といって、患者さんの調剤に応じ、適切なる調剤を行う義務があります。薬剤師はこの調剤契約の履行補助者となります。

万が一、薬剤師が調剤ミスにより患者さんに損害を与えてしまった場合、薬局と薬剤師は」連携して賠償しなければいけません。この時、患者さんにも過失があれば、過失相殺(民法第418条)となり、損害賠償額が減額になります。

C例は、明らかに薬剤師の調剤ミスであるため、過失相殺を考える余地はありません。

損害賠償の範囲

民法第416条第一項では、債務不履行による損害賠償の範囲を、債務不履行との間に相当の因果関係が認められる損害と定めています。

損害のなかの財産的な損害の内訳は、積極損害と消極損害に分けられています。前者は被害者が当該事故のために出費する破目になった損害のこと、損害の内容は、治療費、交通費、弁護士費用などが含まれています。後者は事故に遭わなければ得られた収入(休業損害)のことです。

これらに対しての賠償に慰謝料という精神的損害に対しての賠償を加えたものが損害賠償の金額になります。

但し、治療費などで言えば、本来の治療とは関係ないと思えるもの、温泉治療やマッサージなどが加算されているのは認められません。

また、特別室使用料というような社会一般からは、過分な治療費と考えられるようなものも認めらません。賠償範囲から外れます。

交通費においても、タクシー代となるとその必要性を考慮され、賠償範囲から外されることがあります。

薬局と薬剤師はどこまで損害賠償をすればいい?

今度はC例で考えてみましょう。職業人の場合は、休業損害は現実の収入)に基づいて算出します。C例の患者さんは、自営業なので申告所得を基にして算出します。

実収入が申告所得を大きく上回るような場合で、自営業者がこれを立証できれば、実収入が基になると認められます。

C例の場合、経営する食堂を2週間休業となってしまったので、2週間分の営業所得が休業損害になります。

患 者さんの休業に伴い、使用できなくなった生鮮食品等の費用は休業損害ではないけれど、損害として認められます。しかし、顧客をライバル店に奪われたという のであれば、調剤ミスとの間に、それに当てはまるような因果関係があるとは考えにくく、これについての賠償請求は難しいと考えます。

次は慰謝料ですが、調剤ミスによる健康被害は、傷害とみなされます。傷害の慰謝料の請求は可能です。一般的には、交通事故の慰謝料の基準が適用されるようです。

患者さんの請求額300万円は過剰請求

病院への費用は、加害者である薬局側が払うので、患者さんが請求する300万円は慰謝料となります。

食堂の営業所得などにもよりますが、社会の一般的な水準から見れば、300万円は過剰請求となるでしょう。患者さんがどうしても300万円を請求するのであれば、弁護士を立てて交渉をしたほうがいいと考えます。